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2012年10月

2012年10月31日 (水)

「道灌」のちょっとした発見

先代柳家小さん師匠の「道灌」を聴いていて、ちょっと「おや」っと思うことがありました。

「道灌」は柳家の一門では最初に教わる噺だそうで(「五代目小さん芸語録」の中で、小里ん師匠は『ウチは「道灌」か「二人旅」が最初です』と語っています)、寄席でもよくかかります。

普通は「都々逸なんてえところを見ると、お前も歌道に暗えな」「角が暗えから提灯借りに来た」というのがサゲですが、小さん師匠のはちょとだけ違っています。

どう違うのかというと、「お前もよっぽど歌道に暗えな」のあと、「暗えから提灯借りに来た」と、角という言葉を入れないのです。

このサゲは歌道と角の洒落になっていて、最後に角を入れないとその洒落が伝わりにくいと思うのですが、小さん師匠は敢えてそこを省略しているようです。

ちなみに小学館から出ている音源と、ポニーキャニオンから出ている音源を聴き比べてみましたが、どちらも角を入れていませんでした。

前述の「五代目小さん芸語録」のなかに、関連するエピソードがないかと思い読み返してみましたが、サゲに角を入れるかどうかについての言及はありませんでした。

ただ「道灌」の項で小里ん師匠が「そうして、人物像が本当に描けたら、あとは噺の運び方と、噺の了見をどう表現するかですね。そのための基本として、「無駄なことは絶対言うな」ってことはすごく言われました」と語っているのが興味深いです。

洒落を聴かせようという意図を抜きにして会話として表現するのならば、「暗えから提灯借りに来た」とすっと下げるのが、あるいは自然なのかもしれません。

2012年10月14日 (日)

第三回「ザ・菊之丞」ご来場ありがとうございました

本日は第三回「ザ・菊之丞」にご来場いただき、誠にありがとうございました。

第三回「ザ・菊之丞」@ムーブ町屋ホール
たらちね 柳家まめ緑
景清   古今亭菊之丞
お仲入り
笠碁   橘家文左衛門
らくだ  古今亭菊之丞

次回「ザ・菊之丞」は来年4月を予定しております。
またのお運びをお待ちしております。

なお本日は古今亭圓菊師匠の訃報が飛び込んできました。
大変残念です。心よりご冥福をお祈りいたします。

2012年10月 9日 (火)

10月11日は…

10月11日はウインクの日だそうです。
また喜劇役者の榎本健一(エノケン)の誕生日でもあります。
さらにエディット・ピアフ、ジャン・コクトーの命日だそうです。

そして明後日の10月11日は第三回「ザ・菊之丞」の前売りチケット販売終了の日です。
今週土曜日に開催される「ザ・菊之丞」に、どうぞ皆様お運びください!
チケットのお求めはチケットぴあでどうぞ。

2012年10月 7日 (日)

菊之丞師匠のネタ2:ネタとの巡り合い

菊之丞師匠のトリネタの傾向について書きましたが、通常の寄席の出番や独演会を含めるとどんなネタが多いのか、筆者が過去3年に聴いた菊之丞師匠の演目を基に調べてみました。
平成21年以降に筆者が聴いた菊之丞師匠の高座は143席。
そのうちトップ3の演目は…。

3位 寝床(6)
3位 船徳(6)
3位 三味線栗毛(6)
2位 酢豆腐(8)
1位 愛宕山(9)

愛宕山、酢豆腐、船徳と春から夏にかけてのネタがランクインしているのは、ただ単に筆者がその季節に多く師匠を聴きに行っているのかもしれません。
また上位にランクインしている演目ではなく、過去3年に1回しか聴いていない貴重なネタにも注目してみました。以下のようなネタがありました。

芝浜、元犬、近日息子、からぬけ、三枚起請、うなぎ屋、火焔太鼓、心眼、文七元結、鍋草履、豊志賀、山崎屋、紙入れ、ねずみ穴、初天神、百川、たちきり

近日息子、鍋草履、山崎屋、ねずみ穴といった演目は菊之丞師匠が文菊師匠、柳亭こみちさんと一緒にやっているネタおろしの会で聴いたと記憶しています。
うなぎ屋と心眼は、それぞれ内容の似ている「素人鰻」と「景清」を多くやられているので、かけることが少ないのではないかと思います。
意外だったのは筆者が「師匠といえばこのネタ」と個人的に考えていた紙入れを一回しか聴いていないこと。おそらく師匠はよくかけているのだと思うのですが、過去3年間に限っては、たまたま出会う機会が少なかったのでしょう。

こうして見ると、どんなネタに巡り合うかは、実に実に運と縁とに司られているものなのです。
皆様が第三回「ザ・菊之丞」での素敵なネタとの巡り合えますように!

菊之丞師匠のネタ1:主任興行

菊之丞師匠が主任(トリ)を務める席で、いったいどんな噺を多くかけているのか。
過去3年(平成21年以降)の記録を基に調べてみました。※出典はmixiの菊之丞師匠のコミュニティです。

トリで演じたネタ数は合計107席、上位3演目は以下の通りです(カッコ内は回数)

3位 お見立て(6)
3位 片棒(6)
2位 寝床(8)
2位 幾代餅(8)
1位 井戸の茶碗(9)

ただ面白いことに、鈴本でのトリと池袋のトリとでは傾向ががらりと変わります。

鈴本での上位3演目(全52席中)

3位 らくだ(3)
3位 お見立て(3)
3位 愛宕山(3)
3位 火焔太鼓(3)
2位 幾代餅(4)
2位 二番煎じ(4)
1位 寝床(6)
1位 井戸の茶碗(6)

季節的な要因もあると思いますが、二番煎じ、愛宕山が上位にランクインしています。
らくだは一度の芝居で二回かけた時がありました。

一方池袋はというと…(全27席中)

2位 お見立て(2)
2位 愛宕山(2)
2位 井戸の茶碗(2)
2位 景清(2)
2位 明烏(2)
1位 三味線栗毛(3)
1位 片棒(3)
1位 妾馬(3)

同じ武士の出てくる噺でも井戸の茶碗よりも三味線栗毛、妾馬が上位に入っています。
また廓噺では明烏が上位にランクインしています。
この結果から何がわかるかと申しますと、特に何も結論はありません(笑)
来週末の第三回「ザ・菊之丞」で師匠がらくだ以外に何をやるのか、そちらの方も是非お楽しみに。
ご予約はこちらからどうぞ。

2012年10月 5日 (金)

「らくだ」その3:酔っ払い色々

お酒の噺のマクラには「酒飲みにもいろいろと癖がございます…」というセリフがつきものですが、落語に登場する酔っ払いにも実に様々なタイプがいます。
数ある落語の中で、最も陽気な酔っぱらいは「試し酒」に出てくる下男ではないでしょうか。大杯の酒をがぶがぶ飲みながらどんどん陽気になっていく様子は、まさに落語ならではの楽しさに満ちています。
「替り目」の亭主や「妾馬」の八五郎も罪のない愛嬌のある酔っ払いです。こういう人たちは一緒に飲んできっと楽しいタイプでしょう。
一方で性質の悪いのは「うどん屋」に出てくる酔客。酔っぱらって何度も同じ話を繰り返す面倒な人は皆さんの周りにもいるのではないでしょうか。「ずっこけ」「棒鱈」の酔っ払いも、人に絡む大変迷惑なタイプです。
酒で身をしくじってしまう代表は「富久」の幇間の久蔵と「素人鰻」の職人の金。どちらも平素はごく人がいいのに、酒が入ると性格が変わってしまうという共通点があります。これは酒乱の人の典型なのかもしれません。
「子別れ」に登場する熊さんは酒のうえの失敗を深く反省し、きっぱりと酒を断って人生を再出発させます。「芝浜」の主人公と並んで非常にまっとうな酒飲みのキャラクターです。
さて「らくだ」に出てくる酔っ払いも、身の周りに一人はいそうな、それでいて何処にもいなさそうな、不思議なキャラクターです。
菊之丞師匠が演じる酔態の妙を是非お楽しみに! ご予約はこちらからどうぞ。

2012年10月 3日 (水)

「らくだ」その2:主人公が出てこない?

菊之丞師匠がPVでコメントしている通り、「らくだ」は主人公であるはずのらくださんが出てこない不思議な落語です。
タイトルにもなっているのにその人物が出てこないという噺は実は他にもいくつかあります。
三代目の三木助が得意にしていた「ざこ八」では、主人公の舅にあたるざこ八さんは出てきません。五代目小さんの十八番「猫久」という噺も主人公の猫久さんは地の部分で少し触れられるだけです。廓噺の珍品「徳ちゃん」も、徳ちゃんは一言も口をききません。「不動坊」でもタイトルになっている不動坊火焔は出てきません。
小説や歌謡曲と違って、落語のタイトルは作品の題名というよりも楽屋内で通じればよい符牒のようなものから発生しているため、このように不思議なタイトルが付けられたのでしょう。
ちなみにベケットの不条理劇「ゴドーを待ちながら」でも、ゴドーさんは一切登場しません。
そう考えると、実は「らくだ」は不条理劇なのかも!?
古今亭菊之丞師匠が「らくだ」を演じる、第三回「ザ・菊之丞」は10月13日(土)19時より開演です。
ご予約はお早めに!

「らくだ」その1:江戸の物価事情

落語の中にはお酒がよく出てきます。
三遊亭円丈師匠が著書の中で、現代の人物はあんなに酒を飲みたがらないと書かれていたと記憶していますが、確かに「猫の災難」「親子酒」「芝浜」など現代ではややリアリティに欠けるくらい酒好きの人物が登場します。
なんで落語の中のキャラクターはあんなに酒に執着するのか、どうやらこれは江戸時代の物価事情と関係があるようです。
江戸時代は現在のように酒を大量生産できる製法が確立されていないため、他の物価に比べて酒の値段が非常に高く、そのため人々が酒に焦がれる気持ちも今より強かったということらしいです。
江戸時代は300年あるので、時代によってかなり相場は変わってきますが、湯銭が8文、髪結いが32文、蕎麦が16文、というあたりだったようです。
現在の銭湯の料金は450円ですので、1文=約56円で換算すると、床屋が約1800円、蕎麦が約900円と、大体いまと同じ感覚で計算できます。さてお酒はいくらだったかというと、一升が200文から400だったそうですので、1万1200円から2万2400円ということになります。なるほど、これは相当な高値です。

菊之丞師匠がPVでコメントされているように、「らくだ」の聴きどころの一つは屑屋さんの酔態です。当時はお酒が貴重品であったということに思いを馳せながら聴くと、さらに味わいが深まるのではないでしょうか。

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