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2012年11月 4日 (日)

落語の知識、知識の落語「火事息子」その2

前回「火事息子」には、昭和の名人たちによる音源がたくさん残されていると書きました。大抵は25分~35分といった長さなのですが、圓生百席に収められているものだけは46分半という長尺です。ポニーキャニオンから出ている名演集に収録されているものは28分くらいですので、百席の方の音源はかなり長いのですが、それもそのはず、冒頭30分近くが火事の小噺、彫り物や消火組織に関するマクラです。さらにライブ収録のものと違って百席のほうがテンポもゆっくりとじっくり聴かせようという風にやられていて、「北風がぴゅーっと吹いている」の「ぴゅー」までくどく喋っているのが面白いです。ぜひ聴き比べてみてください。

噺の舞台となる場所を、「神田あたり」「神田三河町」と、きちんと説明してから噺に入るパターンもあります。場所はどこでもよいと思うのですが、志ん生版では「婀娜な深川 勇肌は神田 人の悪いは飯田町」という都々逸が入っていることからも、神田というのは勇肌(いさみ)の土地柄で、そこに火消人足が登場するというのは、昔のお客さんにとってはいかにピタリとくる演出だったのでしょう。

ところで、この噺に出てくる若旦那のような火消人足を臥煙(がえん)というのですが、直木賞作家の山口瞳氏は担当編集者に「臥煙君」というニックネームをつけています。氏は歴代の担当編集者にニックネームをつけてエッセイや旅行記に登場させるのが恒例になっていて、このニックネームは編集者の名前(雅延まさのぶ、というお名前らしいです)から来ているのですが、発想の根元には落語からのヒントもあるような気がします。

何しろ氏は非常に落語の造詣が深く(もっとも、ある年代以上で東京生まれの人には、一般常識として落語の知識があるように思われます)、寄席には出なくなった晩年の志ん生を座敷に呼ぶほどの落語ファンなのです(この様子は名著「酒飲みの自己弁護」に書かれています)。直木賞受賞作「江分利満氏の優雅な生活」のなかにも『三遊亭円生さんみたいに「テッ、しかし、ま、ナンダナ、ありがてえやナ」といってヒタイをポンと叩きたいような気持だった』という箇所があり、また志ん生の「淀五郎」について書いた「旦那の意見」という名エッセイがあり、そば屋で先代馬生と相席をしたエピソードがエッセイに収められていたり、さらに志ん朝師匠と交流があったりと、著書を通して様々に落語好きな一面を覗くことができるのです。臥煙というニックネームを編集者につけたとき、「火事息子」にことが頭にあったとしてもおかしくないように思います。

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