淀五郎のこと3
古今亭志ん生師匠の「淀五郎」は、これもNHK落語名人選のシリーズに収められています。出囃子の一丁入りが他と比べても実にゆっくりで、出囃子が始まってすぐ、おそらく師匠が出てくる前に、ひとりだけパチパチと拍手をする間の抜けた音が入っていたりして、噺に入る前からわくわくするような音源です。
これは昭和36年10月にヤマハホールで収録されたものらしく、そうだとすると志ん生師匠が脳出血で倒れるわずか2か月前ということになります。
圓生師匠、正蔵師匠のものと比べて、志ん生師匠の「淀五郎」で特徴的なのは、団蔵が厳しい態度で接するのは淀五郎のためなのだと諭す部分で、団蔵を淀五郎にとっての「芸の神様」だとまで言います。「百年目」のような噺もそうですが、じっくりと芸の年輪を重ねた名人が演じると、キャラクターにその演者の気持ちが重く反映されて、それぞれの味を醸し出します。志ん生師匠の仲蔵は、何よりもまず人の恩を忘れてはいけないということに重点を置きつつ淀五郎に小言を言う。そのあたりが古今亭志ん生という噺家の持ち味なのではないでしょうか。
前回も書いたとおり、直木賞作家の山口瞳氏には、志ん生師匠の「淀五郎」について書いた「旦那の意見」というエッセイがあります。氏は仲蔵が淀五郎に意見する部分に触れて次のように書いています。
「私は、これは、目上の者が目下の者に意見をするときのこととして完璧だと思う。
二人だけの話にする。酒肴をもつ。恩義(筋)を忘れるな。芸には「型」がある。褒めてもらおうと思うな、という「心がまえ」。それならば具体的にどうするかという先輩の知恵。喧嘩場では、本当に師直を斬ってしまおうという心意気。」
実に氏の書いている通りで、このあたりに正雀師匠が「師匠が、『この噺は、若い時に演っても駄目だよ』と教えてくださったことが、今になってわかってきました」というその妙があるのでしょう。
ポニーキャニオンから発売されている「古今亭志ん生名演大全」の特典CDに「志ん生 表と裏」と題された、志ん生師匠の日常が録音されたものがあり、中に弟子に稽古をつけている様子が収録されています。弟子はおそらく圓菊師匠のように思われますが、志ん生師匠が稽古をつけるその感じが、まさしく仲蔵を思わせます。
こうして色々と聴いてくると、ますます菊之丞師匠の「淀五郎」がどんな風であるのか気になってきました。早く聴いてみたいものです。
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