淀五郎のこと2
先代林家正蔵(彦六)師匠の「淀五郎」について、というか正蔵師匠その人について、非常に興味深いエピソードが数多く書かれた本が、うなぎ書房から最近発刊されました。林家正雀師匠著の「彦六覚え帖」です。
この中には前座時代の正蔵師匠が志ん生師匠と共同生活をしていたことや、仲違いをした圓生師匠の芸を実は高く評価していたことなど、貴重な話が多く収められています。
淀五郎については、噺の眼目をどこに置くかということが以下のように書かれています。
「(ある師匠が「淀五郎」は「中村仲蔵」より噺として劣ると言ったが)これは、淀五郎を噺の主人公だと捉えれば、そういう考えになるのかも知れませんが、この噺の芯は団蔵と仲蔵の芸談であり、人生訓だと捉えると、やはりよく出来た噺だと思います。(中略)師匠が、「この噺は、若い時に演っても駄目だよ」と教えてくださったことが、今になってわかってきました」(「彦六覚え帖」より)
ここに書かれているのは正雀師匠の淀五郎観ですが、おそらく正蔵師匠も同じように考えていたことでしょう。なるほど、「淀五郎」を「中村仲蔵」のような、主人公の成長物語として捉えてはいけない。彼を導く二人の名役者の、芸に対する姿勢を描いたものだとし、それを演じるには噺家もある程度の年輪が必要だというのはとても納得できます。
観客の側から言うと、どの登場人物に感情移入をするか、その年齢によって大分違ってくるのではないでしょうか。若い人は淀五郎に自分の悩みを重ねるでしょうし、そうだとしたら思いっきり淀五郎に感情移入した演じ方があっても良い気がします。
一方で部下のある人でしたら仲蔵の姿勢にリーダーシップのあり方を学ぶかもしれません。この仲蔵が淀五郎に意見する部分については、直木賞作家の山口瞳氏が志ん生師匠の「淀五郎」について触れた「旦那の意見」という名エッセイがあります。次回はそのことについて書きたいと思います。
ちなみに古谷三敏氏の漫画「寄席芸人伝」のなかに、この「淀五郎」を意識して描かれたと思われる「若手潰しの万橘」というエピソードがあります。若手真打の桂小米を苛める名人三遊亭万橘の話で、万橘を殺そうと思い詰めた小米を、万橘によって五厘(事務員)にさせられた元噺家の市之助が諭す、という内容です。さらにこの市之助が噺家から五厘に転身するまでを描いた「五厘の市之助」というエピソードもあって、とても楽しめる内容になっています。
ところで前回書いた圓生師匠と正蔵師匠のそれぞれの「淀五郎」の下げの違いですが、これは実際に音源を聴いていただいた方が良いと思います。正蔵師匠の音源もNHK落語名人選に入っています。
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