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2013年6月

2013年6月18日 (火)

どの落語会に行くかという問題

毎日、東京を中心に数多くの落語会が開催され、土曜や日曜ともなるとその数は都内だけでも30を超す日が珍しくありません。

これだけある落語会の中から、どの会を選んでいくか、というのはなかなか重要な問題です。

日常的に落語を聴きに行く習慣のある人が、落語会を選ぶパターンとして、まずは好きな噺家さんを追っかけるというのがあると思います。
それから噺家さんにこだわらず、特定の会場で開かれる会には必ず行くという人もいると思います。

例えば地域寄席のお客さんなんかはそのパターンで、毎月公民館で開かれる落語会に必ず通っているなんていうお客さんは、その会に登場する若手落語家を色々聴いているから、ネタは沢山知っている、だけど演者の名前は全く覚えておらず、寄席へも行ったことがないという方も多くいるはずです。

あと早朝寄席や深夜寄席は演者に関係なく必ず足を運ぶという人もいると思います。

好きな噺家さんの出ている会だから必ず行くというわけでもなくて、二人会などは、一人が好きな噺家さんでももう一人がどうしても聴きたいという人でないと食指が動かない、という場合もあります。
場所が近所か遠方か、木戸銭がいくらか、大きな会場が小さな会場か、などなど色々な条件が重なって、よしこの会に行ってみよう、と足を運んだ会がとても楽しかった、というのはとても素敵な体験です。

昨日は中野の飲み屋さんで不定期に開かれている「ひろし寄席」に行ってきました。

出演は蜃気楼龍玉師匠、金原亭馬治さん、金原亭馬吉さんという金原亭の俊英が三人、会場は30人くらいのアットホームな空間で、木戸銭は予約が1,800円。これは僕としては行かない選択肢はない、という会です。

最初にあがったのは馬吉さんで「大山詣り」。馬吉さんを聴くのは2月以来だったのですが、割とせまい会場で、高座のすぐ近くでその姿を見ると、なんとなくオーラが大きくなった気がしました。
噺の運びも余裕が感じられて、すごく良い「大山詣り」でした。

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馬吉さん。

次に上がったのが龍玉師匠。得意ネタの「夏泥」。
龍玉師匠は噺を崩したり、ギャグを増やしてウケを狙うという噺家さんではありませんが、この噺をやっているときは暴れている、という印象があります。
何度も聴いていますが、いつも必ずすごくウケているし、余計な入れ事をしなくても噺を進化させられるのだという好例な気がします。

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龍玉師匠。

最後に上がったのは馬治さんで「笠碁」。
この噺は馬治さんの得意ネタといって良いと思います。
おそらく何度もかけているでしょうし、僕も何度か聴いた記憶があるのですが、今回聴いたのは何となくフレッシュな感じがして、そこが驚きでした。

以前に馬治さんの「大工調べ」を聴いたことがあって、もちろん僕も他のほとんどのお客さんもその噺の筋を知っていて、最後には大工の棟梁と大家とが大喧嘩になるのは分かっているのですが、噺を聴きながらなんとなく、「このままでは棟梁がキレて大家と喧嘩になってしまうのではないか」とハラハラした覚えがあります。

落語の登場人物は自分たちに何が起こるのか知らないのだから、そういう気持ちで演じなければいけない、という演者の心得を、たしか小三治師匠が五代目小さんの教えとして書いていたように記憶していますが、馬治さんの「大工調べ」はまさにそういった感じでした。

今回聴いた「笠碁」にもそういうフレッシュさがあって、聴きながら「ああ、この二人がどうか仲直りできますように」と感情移入させられました。
馬治さんは割と貴重な落語体験をさせてくれる演者さんの一人です。

中野の「ひろし寄席」、期待に違わぬ素敵な会でした。次回は9月14日だそうです。

ということで、最後にまた宣伝を。

7月20日(土)13時開演の「山崎屋リレー口演」予約受付中です。
古典落語の演じ手として若手隋一の存在となりつつある蜃気楼龍玉師匠と、秋の真打昇進を目前にぐんぐん勢いを増している三遊亭天どん師匠が、リレーで「山崎屋」を口演します。
参議院選挙の投票日前日で、選挙カーの音が心配なのですが、どうか皆さん、ぜひお運びください。

こちらも宣伝。

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2013年6月 3日 (月)

寄席の日なので、一日ずっと寄席にいる。

6月第一月曜日の今日は「寄席の日」でした。

「寄席の日」は木戸銭が半額になるうえに、記念の団扇をもらえます。

池袋演芸場の夜席が古今亭菊之丞師匠の主任興行なので、行きたいと思っていたのですが、週末に仕事が立て込んで叶わなかったため、「寄席の日」の今日を狙って行くことにしました。

せっかくなので昼席の開口一番から聴くことにして、12時開場のところ、早めに11時過ぎくらいに演芸場に行ったら、すでに何人か並んでいる人がいるという…正気の沙汰ではないです。

ちなみに数年前の寄席の日に立ち見で聴いた記憶があって、すごく混むというイメージだったのですが、結局立ち見にはならなかったようです。
僕の隣の席はずっと空いていました。
なにもこんな早くから並ぶことなかった。

さて、9時間くらいずっと寄席にいたわけですが、何と言っても衝撃的だったのは音楽パフォーマンスののだゆきさんでした。
Youtubeで動画を見ていて、噂も聞いていたのですが、実際に生で見ると、ちょっと言葉で言い表せないほどのショックを受けました。
そのせいで、ほかの落語にいつものように集中できないくらい。

のだゆきさんは、簡単に言うとピアニカとリコーダーを使った音楽漫談です。

ベタな駄洒落を言ったりして伝統的な音楽漫談の形を継承しつつ、随所に日本人ではないようなセンスの笑いを入れてきます(激しい息遣いでピアニカを演奏したあとでむせてみたり、おでこで鍵盤を押して演奏したあと「もう止めてもいいかな!」とキレたり)。

呆気にとられながら、口を閉じる暇がないくらい笑いました。
演奏プラス笑いの形式の芸人さんは、落語協会に所属しているだけでも、ペペ桜井さんとか太田家元九郎さんとか東京ガールズとか結構いろいろな人がいると思うのですが、のだゆきさんは明らかに新しい気がします。

喋りも保育園の先生的・歌のお姉さん的な感じで行くのかと思っていると、天然風にシフトしてみたり、一筋縄ではいかないものを感じさせます。
あと若干の狂気もあります。これは大切かも知れません。
非常に卓越したテクニックに裏付けされた、高度な笑いのセンスと狂気。
皆さん絶対にのだゆきさんを聴くべきです。

ところで夜席の菊之丞師匠のネタは「妾馬」でした。

最後の酔態でグダグダに酔っているところからポーンと泣かせに入る、そのタイミングの絶妙なこと。
寄席の日で入りが良かったので、ややクサくやっている感もありましたが、素晴らしい高座でした。

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